アイス・ブロワー(飯轟)

飯田25×轟24

原案出典:Youtube もしhrakキャラがヒーローじゃなかったらパロAI生成ショート動画

今回は個性はあり設定で書いてます

飯田→駅員運転士

轟→フィギュアスケーター

タイトルにアイスをつけたくなる癖

別原稿合間の癒しに書きました、何気ないやりとりだけで萌えられる飯轟

早く飯轟だけ延々と描ける時間を作りたい











ホームから降車と乗車客の動向を見渡し、今日は金曜深夜にしては比較的客が少ないなと感じた。

おそらくFIFAワールドカップの開幕戦が今日の夕方から放送が始まったことで、夜を通してスポーツ享楽にふける客の出が多いのだろう。

メトロ線のワンマン運転がまもなく終わる。

毎回一日の内で最も気が抜けてくる時間帯だが、週末夜は最もトラブルや遅延が増える。

ホームを注視していると、第一車両奥のドア付近に降車後の人間たちの人だかりができ始めた。

オフィス帰りらしい降車客の女性一人がこちらに駆けてきて、「もしかしたら喧嘩になりそうです!」と促され走りだす。

時間は午前〇時に差しかかる頃で、次の終電を遅らせるわけにはいかないので遅延連絡を放送し、すぐに駆けつけた。


「今からご馳走するから、飲みに行きませんかあ」

駆けつけたドア内では喧嘩という体裁ではなく、無理なナンパに近いケースかと少し難易度は下がったかなと安堵し肩を落とす。

共立ってきた降車客の女性は、それでもまだ心配そうに事態を見つめていた。

「あの…絡まれてる人顔が売れてる人だから、助けてあげたほういいです…」

「わかりました。ご連絡いただいてありがとうございます」

そっと降車客から不安そうな耳打ちをされ頷き返すと、大事になる前に踏み出した。


「あの、お客様!どうされましたか?」

出入り口付近で暴言を吐く若い男性客と彼に追随する女性客の二人組に声をかけると、そっと一息ついた降車客たちが改札へ向かって去っていく。

対角ドア横に、何か言いがかりをつけられているらしい背の高い男性客がいた。

自分と同じ歳の頃だろうか。

青年は大きなショルダーボストンバッグを肩掛けしていて、黒いマスクとキャップを深くかぶっており、おもざしはよく見えなかった。

「駅員来たやないかお前、おれが付き合うからサインだけもらっとけって言っただろが!おら、サインしてやれや兄ちゃん」

暴言を吐き大声で連れ合い女性への対応を強要する男性客に対し、同じ車両の乗客はみんな静かに委縮していた。

最寄り駅前には歓楽街があるので、姿格好の派手さから水商売についている男女組だろうとあたりをつける。

「……、俺はご一緒できませんが、サインだけなら」

絡まれている黒キャップの青年が、駅員の制服を着ている飯田をちらと見やり、迷惑になっている事態に気がついたのか収集をつけ始めた。

絡まれているのは自分であるにもかかわらず、かなり冷静で落ち着いた様子だった。

何か書くものありますか、とあくまでファンらしい女性のほうにだけ向き合い、書くものはないと嘆いた女性は、再び恋人らしい男に怒鳴られびくついていた。

「お客様!他のお客様のご迷惑になりますので、そろそろ発車させていただきますが」

女性をかばい、荒れている男性客との間に入ると脳に怒りが直結した男は、早くしろと女性をどついた。

「ちょっと痛い押さないでよ…!…ごめんなさい、サインはもういいので、よかったら握手だけ…もう本当に行きますから」

さすがに連れ人である男性がやりすぎていることに申し訳が立たなくなり、男の腕に組んでいる逆の手でキャップの青年と握手を交わすと、そっと応援していますと告げた。

もしよかったらそのペンサインの代わりにもらえたりしないでしょうか…と、本当にファンであるらしい彼女に求められ、キャップの青年は小さく微笑んで私物のジェルペンを差し出した。

「ああ…いいですよ」

「おいお前」

「…!」

彼氏がおもむろにキャップの青年のマスクを引き下げ、その顔を覗きこむのにぎょっとしたが、同時に周囲の乗客がざわめきだす。

轟選手じゃない?とちらほら乗客から特定の名前が挙がり、キャップの青年は轟という名字の人間だということがわかった。

素顔を見ても、飯田には彼が周りが騒いでいるほどの何者であるかは判断がつかなかった。

「左怪我はしてっけど綺麗な顔してんなァあんた。有名なんだろあんた。なら帰りの車も出して奢ってやるからうちの店で飲みに付き合えって」

収束しようとしていたのに余計に絡まれる事態がおこり、肩を組まれ抗い戸惑っている轟を見て、やがて周りの乗客も擁護に入ってきた。

「やめろやめろ!早くこいつら追い出してドア閉めろ!」

「っわかりました!お客様方はこのまま乗られますか?」

男女客にも念のため乗車を促すが、男性客は舌打ちをすると連れ合いの女性の肩を抱いて降車した。

「興醒めだわ、お高く止まってんな!!」

唖然としているしかないのだろう轟を飯田は背後にかばい合間に入ったが、これ以上の追及からは逃れられたようでほっと一息をついた。


「お騒がせして申し訳ありません!ただいま発車いたします、ご協力ありがとうございます!」

大きく張った声で飯田が客席に向け一礼すると、乗客たちも安心したのかそれぞれ定位置について静まり返る。

ドア前で立ち尽くす轟の近くに座っていた若い女性の乗客は、応援してます頑張ってくださいと小声でエールを送り、轟はそれに律儀に頷き返していた。

そんなに顔の知れた人なのかと、何も事情を知らない自分だけがその未知の存在感に呆けていたが、飯田より少し背が低いのか目線は下だということに気がつく。

「…大丈夫でしたか?大変な目に合いましたね。深夜間はこういったことが多いんです」

立ち去る前に気の毒だったので一声かけると、あまり慣れない事態だったのか轟も控えめな苦笑を目元に見せた。

「はい、すみません…ありがとうございます」

「安心いたしました、発車しますのでご乗車のままお待ちください」

小さく頷く轟を見送り、急いで運転席に戻る。

既に五分ほど発車時間をオーバーしていて、すぐに発車する旨をマイクに乗せた。




発車後運転席にいるとふと気配を感じて、うしろを見やる。

ガラスごしに運転席を覗く轟の影が見え、車両端まで移動したのかと目を見張った。

何かまだ言伝があったんだろうかと疑問を抱いたが、どうやらそれは見当違いらしい。

物珍しそうにガラスに張り付くようにして席を見ている様子を見て、なんだか年甲斐もなくて可愛いなと思った。

客席のほうは先程の騒ぎのせいで顔を見づらいだろうから、目立たない端まで移動したのだろう。

芸能人かモデルか、上背もあるしゆとりのある衣服越しでも体格も鍛えて締まっている様子から和装も似合いそうだった。

弓道やバレーなどのスポーツマンあたりだろうか。

ネットや書物に傾倒していてテレビを見ない習慣の飯田は、その手の話題には明るくなかった。






「あの」

終電に乗る同僚と交代し、退勤のため駅構内に戻る手前でくだんの轟に再び呼び止められた。

「ああ!さっきの」

改めてマスクを引き下ろした顔つきを青白い構内で見ると、大きな火傷跡は左半面にはあるが本当に芸能界隈にいるような美形であるとついじっと見つめてしまった。

明るい蛍光灯の下でじっくり見てわかったが、左右の目の色が灰とターコイズに分かれている。

人間のオッドアイというものを初めて間近で見た。

どんな個性を持っているんだろうか。

「あの…、さっきはとても助かりました。ありがとうございます」

無愛想にも見えるあまり抑揚のない表情の青年だが、あんな無礼が過ぎるファンへも律儀で無骨な対応をするのと同じく、筋を通す礼儀があるんだなと感じた。

「ああ!ああいうのも仕事の一貫だからね。この最寄りは治安も少し悪いから」

そのとおりだと合点したのか小さく轟は頷き、そんなかんじですね…と足元に視線を落として静かに笑った。

このへんには普段あまり来ることがないから、治安の悪い客層に驚いたのは否めない。

「あとこれ…、もらいもんですけど…よかったら皆さんでどうぞ」

大きなショルダーボストンの他に、さっきは手にしていなかった高級そうな紙袋をおもむろに差し出され、飯田は目を点にする。

「さっきそこで別のファンからもらった差し入れですけど…。俺普段日本茶しか飲まないんで…」

健康に気遣う職種なのか、ファンという第三者から気遣いでいただいたのだろうベジタブルスムージーや百%還元のフルーツジュースなどが五、六本手提げの紙袋に入っていた。

「あっ、えー…お心遣いには本当に感謝いたします…!でも困ったな、お客さんからの商品などの授受は禁じられているんだ…」

ごくたまにトラブル対応の御礼として菓子折りなどを乗客からいただくこともあったが、あの程度の対処でいただける義理などはない。

大体押しつけられるように礼を送られることが多いので、一度は断るマニュアルになっていた。

「ああ…。じゃあ…そういうことなら、」

気まずげに紙袋を下げ、引こうとする轟の気遣いを無碍にしてしまうことにどこか気が引けて、とっさにその腕を飯田は止めてしまった。

「あっ、と、えーっと…!でもせっかくのファンからの贈答品ということだし、君の口にも合わないのなら、これは僕個人が知人からの差し入れとして受け取るよ、それでも構わないだろうか」

誤った判断だったと眉を下げる轟を見ていると、毎年二月に個別にチョコレートをくれる女性客のことを思い出した。

つい本命ではないのに、わざわざ個人を呼び止めてくれた気遣いが気の毒で、結局受け取ってしまう悪い癖を自覚してしまう。

「えーと…フルーツジュースは日課で嗜んでいて…。好きなんですよ」

「ああ…そうしてもらえると、くれた人も悪く思わねぇと思う」

いただこうと手を伸ばし、紙袋を受け取ると、飲料だからかそれなりに重さが手首にかかる。

品のいい風体なのに、口調は大分粗野というかつっけんどんなかんじなのだなと思ったが、静かで控えめだからか横暴さはまったくない。

どちらかというと、歳の頃のわりにどこか幼げな素直さがあるのだろうと感じて、つい口元はほころんだ。

うっかり顔に出ていた好感に首を傾げている轟に対して、いや何でもないと首を振り誤魔化す。

「たまたま友達と呑んでて電車に乗らなきゃなんなくて…マネージャーもう帰って対応上手くいかなかったから…、本当に助かった」

往来がまた轟の存在に気がつきだしてざわめいたので、もう改札へ向かおうと彼を促す。

メトロから乗り継ぎ、次はJRに乗り換えるとのことだった。

「時間帯が遅い時は泥酔客も海外からの集団で盛場から帰られる観光客も多いから、なるべく費用対効果でタクシーを利用するといいよ。特に…顔が知られている仕事などでしたら」

あのような騒ぎがあったあとでも在来線で帰ろうしているのだから、相当世間体への無知があるのか興味が薄いのかと何か心配になり、進言してしまったあとにお節介だったかと口ごもる。

「…ああ、それもそうだな…。そうします」


メトロの改札を出る間際、見送っていた飯田を突然振り返った轟に、うっと顔をのけぞらせた。

「飯田」

「んっ?!何、だろうか…!」

夏用制服の胸元にある氏名バッジと飯田の顔を見比べる轟に、急に呼び捨てにされたぞと大いに驚いた。

悪い意味では踏み込みが強すぎる態度だが、これまでの言動を見ていて他意や悪意ではない素直さからだと認識したので、冷静さを必死に取り戻す。

「また友達と呑む時にこの路線乗るかもしんねえから…覚えとく」

「ん。うん。では、こちらは謹んで俺がいただきます。気をつけて帰るんだぞ」

「ん…。じゃあ」

改札前でもやはりマスクやキャップでも冴えた風貌とオーラが隠せないのか、振り返って彼の正体を確認する客を何人も見る。

もしかしたら、ここにいる飯田一人だけが、彼のことをまったく知らないのかもしれない。

差し入れもありがとうと、改札ごしに持ち上げて見せると、ふっとマスクごしのオッドアイの目元が微笑んだ。











「鏑木さん!退勤点呼お願いします!」

「おー、飯田ちゃん真夜中でも元気。おつかれー。はいはい了解」

一日の最後の点呼読み合わせが済み、デスクで一息ついたついでに、差し入れの紙袋からスムージーなどの飲料を次々と取り出した。

デスクに並べられた洒落っ気のあるドリンクパウチに、なんだなんだと後輩と上司の鏑木が集まってきた。

「飯田ちゃん、なにこれ。なんか洒落てんねー。女の子が好きそうなやつ」

「泥酔客のトラブルを対処したら、お礼にお客さんがくれたんですよ。あくまで俺個人としていただきましたので」

別にそこ怒ってないよと鏑木に背中をばんばん叩かれ笑われたが、まもなくみんな退勤だからか後輩共に上機嫌だった。

「あー!彼女が好きなやつっすよこれ!高いのめっちゃ」

一回飲んだことあるこれと、後輩はミックスフルーツとケールのスムージーを手に取って、いただきますとさっそく封を開けだした。

物怖じしない素直な後輩で、初対面で遠慮のない素直さを持っているあの青年を思い出した。

「鏑木さんも君も知っているかもしれないから聞くけど…」

トラブル対処をした際の被害者の轟について簡単に説明をする。

どういう子よと鏑木が促すので、端的に有名人だと思うと話す。

「顔がどうもよく知られているようで…。高身長で、ちゃんと鍛えている人でしたよ。スポーツ関連か芸能人か何かのようだったんですが…俺はテレビは見ないから…。ご存じですか?」

具体的に特徴を告げると、ああと後輩の男子が大きく相槌を打ち、スマホを手安く操作して動画の画面を見せてくれた。

「海外の大会から選手が戻ってきてんですよ今。メダルいくつか取ってて」

「大会とは?何の?」

やっぱりスポーツ選手だったのかと、あのそっけないような朴訥な社交具合からしてやはり合点がいった。

一心に注力し、最も得意なことが他にあるのだ。

「フィギュアスケートっすよ。なんか巷じゃすげー人気ですよこの人。顔がいいからなー」

「主に女性客が彼のことをすごく振り返っていたよ。だからか」

「そーそー。羨ましいっすよねえー!あんな顔とタッパあればー。多分こいつでしょ?」

ニュース動画の切り取りらしかったが、海外便で成田空港に戻ってきた選手一団を写した画面を見て、手前にクローズアップされた見覚えのありすぎる青年を凝視した。

「そう、この青年だった!」

すかさず後輩に指摘すると、やっぱりとうんうんと頷いて納得したようにスムージーを旨そうにすすっている。

「ファンサはそつなく誰にでもしてて評判はいいんだけど、なんかぼーっとしてるのか天然なのか、オフシーズンとかはわりと普通に都内歩いてるみたいすよ」

うちの彼女もこいつのファンだから最近追っかけてますよと、呆れた風体で肩を落としている。

「君はそれでいいのかい?他の男性に気持ちを奪われてしまっていては、複雑な気持ちになるのでは」

「半分バーチャルでしょ、こういう連中は。一般にはとうてい手が届かねえんだからさあ」

女だっていないわけないしこんなの、と後輩は立派に嫉妬心を覗かせてはいるものの、言葉どおり疑似的な一時の信仰の対象という見方で腐心しているらしかった。


「子供の時からスポーツ一家だったらしいから、関心ねえんだろな世間に」


何個か持って帰っていいすか、お土産にしたいからとずるがしこくのたまう後輩に失笑しつつ頷き、帰り支度を始めるためにロッカーへ向かう。


―――自分なら、好きな人が他の人間に夢中になっていたなら、許せるだろうか。

兄の生き様を強く信奉する自分の心持ちに似たようなものだろうけれど、女性のそれはきっと恋に酷似した熱を伴うなのだろうことだけはわかる。

ましてや轟のような見目のいい青年で性格も飾りがない異性相手に抱くものなら、なおさらあまり関心できることではないかもしれない。

年々熱を上げてやってきている二月の女性の影をこれからどうしたものかと、ふと思い出していた。











契約している駐車場へ向かいながら、通りかかるタクシー乗り場に轟がまだ並んでいるかもしれないと見渡す。

ギフトを社員に配ったら喜ばれたことと、国際的に股をかけたスポーツの有志であるのにあまり気遣えなかったことを、機会があればまた謝ろうと思っていた。

長い待機列の間に飛びぬけて高い背丈を見つけ、轟だとすぐにわかった。

金曜の深夜なので、利用客が多く列が立て込んでいるのだ。

問題ないようなら、車で最寄り駅まで乗せてもいいかもしれないと列に近づくと、轟もすぐに気がついた。

初夏の少し熱がこもる夜に、いまだに黒いマスクとキャップをしているのが気の毒だ。

近づくにつれ、うっすらと赤い毛先とこめかみの間に汗が張っている。


「飯田です。先程は君が誰か知らず失礼をした」

「……、何で」

私服に着替えている飯田をつま先から順に見上げて、何故ここにいるのか不思議そうに目を丸くしている。

「今帰りでね。もしまだ並んでいたら、無礼を詫びたかった」

「別にそういうの、全然気にしてねぇから…。つうか、タクシーすげぇ混んでて、列進まねえ」

濁った熱さと、身近から寄せられる期待と好奇心の関心を浴びることに落ち着かないことがすぐに見てとれた。

仕方のないことだろうと、凱旋動画を拝聴したあとだと同情する。

「うん。この乗り場はね、週末はいつもこうなんだ。急いでいる?」

「…帰るだけで急ぎじゃねえけど、じろじろ見られるからな」

大きい嘆息がマスクごしに吐き出される。

背筋も少し丸くなり、肩にかけていたずっしりと重いショルダーボストンを地面におろした。

そうだろうねと同意の苦笑を漏らすと、ようやく気分をまぎらわせる相手ができたことで脱力したようだった。

「…君がよければなんだが、俺は車で通勤してるから、お詫びに最寄り駅まで送るが…どうだい?」

思いもよらない提案だったのか、猫のように丸くした目が可愛かった。

ああ――。

動物というか、猫の気まぐれで素直な生態に近いのかな――。

我ながらの擬態したイメージに納得した。

そうだ。だから少しこの立派な成人男性に対しても、幼げな片鱗を感じとってしまうのかなどと思った。

「お詫びって…大袈裟だな。別に飯田さんには何もされてねぇし」

「退勤時に先輩にいろんな客が乗るからメディアももっと見ておけと注意されてしまってね…。すまない、知らなかったんだ」

「…別にいいよ。俺は滑ってるだけだし」

待機客に二人の会話を聞かれていることに轟は居心地悪そうにしたので、慌ててすぐ切り上げることにする。

「もちろん無理にとは言わない。轟くんが選んでいいよ」

ふー、と検討するような間と吐き出す吐息が、マスクを揺らすのを見つめた。

ただ、彼の意思はどうあれ、なるべく早く息の楽にできるところへ連れ出してやりたいとは思った。

自由意志の強いしなやかな青年だから、マネージャーは読みづらい彼の扱いに苦労をされているのかもしれないなと想像する。

フィギュアスケートのこともよく知らないなと思い当たり、彼と別れたらネットで功績を是非調べてみようかと思う。


「じゃあ…、甘えていいか」

息苦しさから、いち早く脱したいのは彼も同意だったようだ。

飯田を見上げる目線には明らかな安堵が浮かんでいて、声をかけてみてよかったなと自身のとっさの判断に満足していた。

「ん。もちろん。おいで」


地面に置いていた大きなショルダーボストンを持ちあげてみると思ったよりも重量があった。

行こう、と身軽になった轟を促す。

あとを追って列を抜け、すぐに駆け寄ってきた轟は飯田と並び立ち、ありがとなと小さくつぶやいた。










続きません!